単色の言葉

テキトーに書いたら載せるだけの場所です。

2018-01-01から1年間の記事一覧

善かれと想って

4,517字 人が死にゆくとき、最後まで残るのは、聴覚、らしい。 だから私は、いつも遺族に同じ言葉をかけることにしている。 「感謝を、伝えてあげてください」 息を引き取っても、直後であればまだ意識はそこにある。貴方のその想いは、その人に届くのだ、と…

殺人なんて、あるわけないじゃないですか。後編

17,321字 「それ、は……本当、なのか」 責任者さんは、喜びでも悲しみでもない複雑な反応を返す。 本当は不安で仕方なかったのだろう、身体が小刻みに震えている。それもそうだ。一時の感情に突き動かされ、下手をしたら人を殺していたかもしれなかったのだか…

殺人なんて、あるわけないじゃないですか。中編

18,869字 乗り気でないうえに時折スマートフォンに目を落とす先輩と共に、視聴覚室の軽音楽部、美術室の美術部、LL教室の華道部、書道部、茶道室の茶道部、武道場の文芸部、アニメーション研究会、乗り物愛好会、図書部、天文部や生物部に物理部等々、特別…

殺人なんて、あるわけないじゃないですか。前編

10,155字 「殺人、か……」 静まり返った会議室で、ぽつりと。しかし重々しく、至って真剣な表情で、先輩はそう呟いた。 そう、年に一度のビッグイベントである文化祭。その一日目の朝を迎えたこの高校では、想像される晴れやかで爽やかな空気とは正反対の、身…

虚像の国のアリス

8595字 私が「アリス」になったのは、小学校に上がる前の春休み、だった。 記憶の限りでは、昼過ぎ、少し近所のスーパーの駐車場で。 母親の後を追って車から降りた次の瞬間、突然。私の視界は『それ』に占領された。 細く長い六本の脚。丸い頭、鋭く尖った…